アサート No.407(2011年10月22日) |
【本の紹介】 ★「仮面の騎士」橋下徹 独裁支配の野望と罠 講談社 2011年10月 1400円+税 ★大阪都構想Q&Aと資料--大阪・堺が無力な「分断都市」になる-- 公人社 2011年9月 2200円+税 |
いよいよ「大阪秋の陣」が始まろうとしている。来週には、橋下知事が正式に辞任を表明する予定と言われており、10月31日に辞任との報道もある。こうした緊迫した情勢の中で、時宜を得た本が続々と出版された。書評とまではいかないが、読者各位に是非読んでいただきたいと、概要を紹介したいと思う。 ![]() まず、「独裁支配の野望と罠」である。すでに先の統一地方選挙においては、大阪府議会の過半数を制した橋下・大阪維新の会。3分の2条項の案件は別として、予算・条例などの議決においては、大阪府の「独裁支配」を完了させたと言ってよいだろう。次に狙いを定めているのが、大阪市である。橋下は、「今の日本の政治で、一番重要なのは独裁。独裁と言われるくらいの強い力だ。」と今年6月の政治資金パーティで発言している。自ら「独裁」という言葉を使った。まさに本音が出たのである。そして、次のターゲットとされたのが、大阪市と大阪市民なのである。 確かに橋下知事は選挙に強い。特に特定政党を支持していない無党派層に強い支持を持っている。2年前の堺市長選挙、そして先の統一地方選挙しかりである。だが、その政治手法は、意見の違うもの、反対するものを徹底的に排除する手法。まさに「独裁支配」なのである。本書は、橋下知事とは何者であるのか、そして約4年間の橋下・大阪府政が、何を作り、何を壊し、何を残したのか、府政の現場で起こった事を克明に明らかにしている。さらに、維新の会が掲げる「大阪都構想」が、如何に空虚で、大阪の地方自治を破壊し、大阪府民・大阪市民を不幸に陥れるものであるかを明らかにしている。 <「仮面のヒーロー」の素顔は、独裁者だった> 第1章「大阪維新の会 独裁への危険な体質」では、タレントから大阪府知事へ、そして維新の会結成から大阪都構想に至るこれまでの「軌跡」を追いながら、橋下の素顔を明らかにする。弁護士をめざしたいきさつ、駆け出し時代に債務取立に走りまわり、金融屋の顧問弁護士をして、弁護士事務所を開設、そして視聴者受けする放言を武器にテレビタレント。そしてタレントとしての知名度を生かして、知事へと昇りつめた。 しかし、府議会では、WTCへの大阪府庁移転・買取をめぐって、議会と対立。この経過の中で、自らの議員グループ=大阪維新の会の育成へと動いていく。 <大阪都構想がもたらす大阪府民の不幸> 第2章では、大阪市解体をめざす「大阪都構想」とは、何であるのかが、明らかにされている。橋下維新の会の唯一の政策が「大阪都構想」であるが、統一地方選挙を前後して、大阪都構想というビジョンは曖昧性から抜け出ておらず、今も変わらない。この曖昧性こそが、そこに暮らす府民や市民の視線から発想されたものではなく、「成長戦略」の美名の下に、権限と財源を「大阪都」に集中することだけを目的にしていることが明らかにされる。 「大阪都構想の内容について、真面目な議論が巻き起これば起こるほど、様々な問題が噴出し、問題点が白日のもとに曝されてしまうので、それを回避するため、漠然としたムード、イメージだけで市民を動かそうという、意図的な世論操作であることは明らかです。」 <橋下府政の下、何が起こったか> 第3章「橋下知事の「大阪府政・四年間」を斬る」では、橋下府政の下、何が起こっているのかが明らかにされる。まず衝撃的なのは、大阪府職員の自殺が、橋下知事就任後急増している事実である。それまで、年間1、2名だった自殺者が6,7名に増えた。なぜか、知事の意に沿わない職員は、徹底的に罵倒されるか、干されるか。職員のやる気をなくさせている現実が明らかにされる。 昨年10月、大阪府商工労働部国際交流促進課参事が、「仕事上の課題・宿題が増え続け、少しも解決しません。もう限界です。疲れました。」との遺書を残して、行方不明となり、淀川で遺体が発見される。彼も橋下の犠牲者である。台湾訪問をめぐるマスコミ対応での朝礼暮改。責任をすべて職員になすりつける手法。大阪府の中では、無原則に知事に擦り寄る職員がいる一方で、大半の職員のやる気がどんどん低下しているという。 <橋下にむらがる利権> 第4章「「大阪都」に生まれる新利権と群がる人々」では、橋下知事が、大阪都構想によって新たな成長を生むとしている政策が、様々な利権と絡んでいることが明らかにされている。まず、府庁をWTCに移転した場合、大阪市の中心部大手前地区に広大な土地が出現し、土地に絡む利権が生まれる。大阪市を手中に収めれば、大阪市地下鉄を民営化・売却というシナリオであり、利権が生まれる。法定金利を上回る貸付利率を適用できる「特区」構想は、金融利権そのものであろう。 <大阪都構想は必ず破綻する> 終章にあたる第5章「大阪独裁支配の橋下構想は必ず破綻する」では、今ある基礎自治体を衰退させ、地方自治・地方分権に背を向けた「大阪都構想」が、大阪の復権に繋がるどころか、一層の衰退と混乱をもたらすものであることが明らかにされる。 本書は、独裁と民主主義の否定を覆い隠し、イメージ戦略のみで突き進む橋下維新の会に対して、自治体行政の現場から、事実と論拠を示して、真っ向から批判する内容となっている。著者は、「大阪の地方自治を守る会」で、木原敬介氏(前・堺市長)、坂口義雄氏(前・吹田市長)はじめ、7名の行政の現場を経験してきた方々である。是非読んでいただきたい。 ![]() 次に紹介するのは、「大阪都構想Q&A--大阪・堺が無力な「分断都市」になる--」であり、澤井勝・村上弘・大阪市政調査会によるものである。 「仮面の騎士」とは趣を異とにしており、現時点で明らかにされている大阪維新の会の政策を、具体的に検討して、平易なQ&A方式で、「大阪都構想」を批判する内容になっている。 例えば、「Q4 大阪都構想では、大阪市と堺市は廃止されるのですか。」「Q6 大阪都になると、住民サービスはどうなるのでしょうか。」「Q10 大阪府と大阪市の協力は理想であっても、ムリではないですか。」「Q7 大阪都構想のデメリットについてマスコミの報道が少ないのは、デメリットが少ないからですか。あるいは、知事の怒りを恐れるからですか。」「Q18 大阪の競争力を回復させるためには、府と大阪市を一元化するべきではないでしょうか」「Q25 橋下知事の大阪都構想がわかりやすく、同時に分かりにくいのはなぜでしょう」など28問の問いを設定し、それぞれに、丁寧な分析が行われ、それに付随する資料も巻末にまとめられている。 Q&Aは、著者の一人である村上弘立命館大学法学部教授の手によるものである。 その中で、私がなるほどと感心したのは、以下の部分である。Q4-Aでは、大阪維新の会が、「廃止」という言葉を徹底的に避けている点。二つの政令都市の廃止が、大阪都構想の核心であるのに、「ONE大阪」という点だけを強調していること。 さらに、Q6-Aでは、「大阪維新の会マニュフェストでも、経済成長が起これば特別区は行政サービスを改善しうるとしているだけで、改善を約束しているわけではありません。」という分析がされる。 その他は紹介を省くけれど、大阪都構想が、そのデメリットについて明らかにしていない点は、まさにデマゴギーの部類に属する問題と言える。大阪市・堺市を廃止すれば、その住民は、これまでのように選挙で市長を選ぶことはできない。区長公選にするというが、区の権限は、彼らの言う「基礎自治体」機能に限られ、府知事や府議会選挙が唯一の意思表明の場ということになり、ますます「地方自治」は遠くなる。 さらに、大阪市の文化、スポーツ、歴史的建造物などが、「大阪都」に移転する。施設を閉鎖しようが、売却しようが、「大阪市民」「堺市民」の意見は届かず、「大阪都」=橋下独裁者の「成長戦略」のためにのみ「活用される」だろう。知事就任時の相次いだ文化施設閉鎖が思い起こされる。 この2冊の本は、それぞれに大阪都構想、橋下独裁支配に対する有効な批判の手引きとなるだろう。是非一読を薦めたい。(2011-10-19佐野秀夫) |